7月になったが,梅雨明けも少し先で蒸し暑い。
一日中エアコンをつけているのも電気の使い過ぎと,家の窓を開ける。
閑静な住宅街であれば別だが,私の住んでいるところは街中のマンション(欧米人からみればアパート)なので車の走行音や、救急車のサイレンなど街の騒がしい音が聞こえてくる。
音には心地よい音もあれば,やかましいだけの音もある。
後者はうるさいだけでなく,ときとして健康をもおびやかす。
好ましくない音のことを騒音と呼んでいる。
ただし,ピアノを弾いている人はその音を騒音と感じなくても周囲の人は騒音と感じることがあるなど,騒音かどうかは聴く人の主観にも左右される。
音は物理的な強さと,感覚的な大きさを区別して考えないといけない。
同じ強さの音であっても,周波数が異なれば感じる音の大きさは異なる。
人間の耳は低い方は20ヘルツくらいから高い方は20000ヘルツくらいまでの範囲の周波数の音を聴くことができるが,そのうち特に敏感なのは言語の周波数帯域である1000ヘルツから3000ヘルツくらいまでの音である。
デシベル(dB)は音の強さをあらわす単位で,物理的に音の圧力を測って数値化している。
騒音がどれくらいのものかはデシベルで表される。
人間の耳は低音になるほど聴こえにくくなるので,騒音計も人間の耳に似せて低音になるほど感度を低くしている。
測定した騒音が何デシベルか示されても,それがどれくらいのものかピンとこないが,実際の騒音は以下のようである。
0~10デシベル:呼吸する音
10~20デシベル:ささやき
20~30デシベル:ページをめくる紙の音
30~40デシベル:風で木の葉がすれる音
40~50デシベル:比較的静かな事務室
50~60デシベル:スーパーマーケット
60~70デシベル:雑踏,国道沿い
80~90デシベル:プレス機械の近く
90~100デシベル:ガード下で電車通過
100~110デシベル:ディスコ
120デシベル:耳をつんざくような音
騒音の人体影響には,騒音に特有の聴取妨害や難聴,及び一般的なストレス症状がみられる。
聴取妨害は,騒音が聴きたい音を聞こえなくするマスキング効果をもつからである。
低音は高音をマスキングしやすく,騒音と聴きたい音の周波数が近いほどマスキングが起こり易い。
騒音が大きいほどマスキングされる音の範囲が広がる。
1m離れて文章を朗読してもらうと,騒音が60デシベルを超えるあたりから聞きとれなくなり,70デシベルを超えると急激に聞こえにくくなる。
騒音による難聴は職場環境で大きな騒音にさらされると起こりやすく,一時的難聴と永久的難聴がある。
一時的難聴は騒音にさらされないようにすると速やかに回復するが,長年さらされていると回復しにくくなり永久的難聴になる。
一方,騒音が内耳にある有毛細胞に伝えられると,発生した電気信号は大脳皮質の聴覚野へ送られるだけでなく,大脳の新皮質へ,あるいは視床下部を介して旧皮質や古皮質へも送られる。
したがって,騒音により精神的,情緒的なストレス症状が生じる。
視床下部は内分泌系や自律神経系の中枢であり,これらに支配されている末梢の臓器も騒音の影響を受けるようになる。
街の喧騒を耳にすると、田園風景が懐かしくなる。
環境騒音が年間を通じて30~40デシベル以下という静寂な地域に住むスーダンの住民を調査したものでは,年をとっても耳が聞こえにくくなる人が少なかったことが知られている。