コロナの騒動はいまだ終息の気配をみせない。
治療法が確立しておらず肺炎を起こして死ぬかもしれないというのが、最大の脅威だ。
酸素の取り込み口である肺が炎症を起こして機能しなくなることは死を意味する。
私たちは酸素を体内に取り込んで生命を維持するためのエネルギーを得ている。
一般的に生物が生きていくためのエネルギーはリン酸化合物であるATP(アデノシン三リン酸)に蓄えられている。
ATPは酸素がなくても作られるが、大部分のATPは酸素がないと作ることができない。
そのため,私たちは空気中に含まれている酸素を頼りに呼吸している。
肺で取り込まれた酸素は血液の中に入って全身の組織に運ばれ,組織を構成している細胞で消費される(細胞呼吸)。
細胞呼吸では酸素が細胞内に拡散して入り,有機物が分解してATPが作られるときに消費される。
有機物が分解するときの化学反応は解糖系,クエン酸回路,電子伝達系という3つの段階に分けられる。
第一段階の解糖系では,グルコースが細胞質において幾つかの中間産物を経て解糖系の最終産物であるピルビン酸に変えられるとともに,水素原子が取り出される。
ピルビン酸は細胞小器官であるミトコンドリアの中に入り,次のクエン酸回路の材料になる。
この段階ではまだ酸素が必要でなく、少しだけATPが合成される。
第二段階のクエン酸回路では,ピルビン酸がミトコンドリアの内膜の内側(マトリクス)に運ばれ,酵素の働きによりCoA(Coenzyme A,補酵素A)と結合してアセチルCoAになる。
生成されたアセチルCoAはクエン酸回路に入り,クエン酸が生成されることから始まり,次々と形を変えて回路を一周し,再びアセチルCoAを取り込むことになる。
クエン酸回路において生成した二酸化炭素は排出されるとともに,水素原子が取り出されて次の電子伝達系の材料になる。
ここでもまだ酸素は必要でなく,少しだけATPが合成される。
第三段階の電子伝達系は化学反応の最終段階で,ミトコンドリアの内膜で生じる。
内膜には水素原子を用いてATPを合成するための酵素が順番に規則正しく並んでいる。
水素原子は水素イオンと電子に分解し,電子の持つエネルギーはミトコンドリアのマトリクスにある水素イオンを内膜と外膜の間の空間(膜間腔)に運び出す。
したがって,マトリクスにある水素イオン濃度は低下するので,再び膜間腔からマトリクス側に水素イオンが戻る。
そのときに通過する内膜で水素イオンはエネルギーを放出し,そのエネルギーと内膜にあるATP合成酵素を使いATPが合成される。
このようにミトコンドリア内で水素原子が電子を放出するという酸化反応によりATPが合成されることを酸化的リン酸化という。
膜間腔からマトリクスに戻りエネルギーを失った水素イオンは,ここで初めて酸素と結合して水になり排出される。
すなわち,私たちが生きていくうえで欠かせない酸素はこの段階でようやく必要になり,水素イオンと結びつくことで消費される。
電子伝達系では多量のATPが合成される。
ちなみに,グルコースからエネルギーが作られるときの反応式は次のように表すことができる。
C6H12O6 + 6O2 → 6CO2 + 6H2O + エネルギー(ATP)
反応式だけを見ると私たちの体内では栄養素が酸素と直接結びついて分解しエネルギーを作り出していると言いたくなるが,上記のように実際はそうではない。