若い頃,腰掛け程度に研究所の医局にお世話になったことがある。
医局というのは簡単に言うと医者たちが診療以外のときに詰めている所だ。
短い期間だったが見たり聞いたり初めてのことが多くて結構,楽しかった。
医局はその診療科を取り仕切る教授以下,助教授(現在は准教授),講師,助手(現在は助教),医局員からなる大所帯だ。
助手の一人が勝手に外国に行ってしまったということで,私が替わりに居させてもらった。
助手の中で私も含めて独身者が数人いたが,新参者の私と仲良くしてくれた。
医局の朝は7時台から抄読会(輪番で外国論文を紹介する)が始まり,8時前後に教授の下でのカンファランス(打合せ)があった。
臨床医たちは,その後,午前中は外来患者を診療した。
午後は入院患者への対応をした後,外部の病院に出かけてアルバイトする人が多かったようだ。
その後は再び研究所に戻って自分の研究をしていた。
傍で見ていると臨床医はかなり忙しそうだった。
夕食は独身の助手と一緒に出前を取って食事することが多かった。
ときどき講師の先生に連れられて夜の街に出かけた。
少し飲んでカラオケをする程度だったが、臨床医たちの本音が聞けて面白かった。
ある日の夜中に灯りを消して医局のソファで寝ていると,誰かが部屋に入ってきたのに気づいた。
様子をうかがっているようだったが、暗闇の中に私が横たわっているのを発見したのだろうか,驚いて出て行ったような音がした。
当時出没していたコソドロだったのではないかと思っている。
研究所と実家が同じ県内にあったので、週末などに帰省して母や姉の世話になった。
あの頃から随分と時間がたってしまった。
今、考えてみると、若い頃は親兄弟や職場の方々のお世話になりながら生活していたとしみじみ思う。
感謝のことばもいえなかったが、私にとって大切な人たちがいた。