一昨年の春,リタイアしてからというもの,自由な時間があり過ぎる。
なるべく無為な時間を過ごすまい。
家にいて読書という手もあるが,今の自分にとって読書は睡眠導入剤に等しい。
地域社会とつながりたいという思いもあったので、公民館のサークル活動に参加してみた。
公民館では多くのサークルが活動しているが,朗読の集まりに顔を出してみた。
家にばかりいると,ある程度まとまった文章を話す機会が少なくなる。
家族との会話はあるが,「あれ,それ,これ」という短い指示語を含めて短文で会話は終わる。
加齢現象とはいえ,近年,話しことばに声量もなくなったと感じている。
そこで,ボイストレーニングもかねて朗読をしてみたかったわけである。
サークル活動の種類にもよるだろうが,公民館に集まってこられた方々は全員がおば様方であった。
小説や新聞記事の一節をコピーして,みんなで順番に朗読していた。
飛び入り参加の私にも何か読んでみるように言われたので,「坊ちゃん」の冒頭を朗読した。
読み終えると褒められたが,本心からのお褒めの言葉であったのか,私にはわからなかった。
朗読の次に顔を出してみたのは,別の公民館で開かれているシャンソンを歌う集まりである。
やはり,集まってこられた方々は全員がおば様方であった。
ここでもソロで歌うように言われたので,越路吹雪の「恋心」を歌ってみた。
若い頃は飲み会で歌い,歌姫という呼び声も高かったあの私が,公民館で歌ってみて愕然とした。
声量がないだけでなく,高音部がまったく発声できず,さながら断末魔の声であった。
結局のところ,朗読の集まりにもシャンソンの集まりにも試しに一度参加したきりである。
公民館のおば様方は歓迎してくれたように思いたいが,私には少し場違いな気がした。
発声の衰えをどうにかせねばという気持ちはあるが,もう少し他の手段を考えたい。