2月23日は今上天皇の誕生日だが,語呂合わせで富士山の日でもあるらしい。
ふもとから富士山を眺める分には絶景だが,今頃,頂上付近はさぞかし寒かろう。
なにしろ,日本一の標高は3776m。
山頂の2月の平均気温はー17.4℃(平年値)というから極寒の地だ。
それだけではない。
高地だから気圧も低い。
気温は夏になるとかなり上がってくれるが,気圧はずっと低いまま。
気圧が低いときに私たちに大きく影響するのは空気の酸素分圧(酸素のみの圧力)が低くなること。
肺胞気(肺の末端にある小さな袋である肺胞の中の空気)の酸素分圧と肺毛細血管(肺胞の壁に張りついている毛細血管)を通過する静脈血の酸素分圧の圧力差を利用して酸素は血中に入り込む。
圧力差が大きいほど多くの酸素が血中に入り込むので,肺胞気の酸素分圧は高い方がよい。
おおまかにいうと、高度0m(平地)での肺胞気の酸素分圧は約100mmHgであり,動脈血の酸素飽和度(血中のヘモグロビンの何%に酸素が結びついているか)はほぼ100%。
酸素分圧が高いほど、ヘモグロビンと酸素はよく結びつく。
しかし、高度3000mくらいになると肺胞気の酸素分圧は約60mmHgになり,動脈血の酸素飽和度は90%程度に低下する。
さらに酸素分圧が低下すると酸素飽和度はヘモグロビンの性質上,指数関数的に減少していく。
したがって,高地ではヘモグロビンの酸素運搬能力が低下する。
安静にしている場合,高度3000mくらいまではそうでもないが,この高度を超えると低酸素(酸素分圧が低いこと)の影響が現れるようになる。
運動をしている場合は、もっと低い高度で影響が現れ始める。
代表的な身体への影響は呼吸が荒くなること(過換気)。
高度がさらに高くなると過換気でめまいや意識障害がおきる(低酸素症、高山病)。
ふだん,平地に居住している人たちの富士登山は侮れない。
高地に何世代にもわたり居住している人たちではどうか。
アンデス山脈の一帯にはケチュアやアイマラと呼ばれる先住民族が1万2000年以上前から居住し,チベット高原にはチベット(族)が2万5000年以上前から居住している。
近年,両地域の高地人では高地(低酸素)環境への適応の仕方に違いのあることがわかってきた。
アンデスの高地人は主として赤血球を増やしてヘモグロビンと酸素を多く結合させることで酸素運搬能力を維持しているのに対して,チベットの高地人は低酸素への感度が高く,肺での換気量(吸ったり吐いたりする量)を増やして酸素が不足しないようにしている。
赤血球が多くなると血液の粘性が増して血流阻害による慢性高山病になる危険性があるので,チベットの高地人による換気量を高めた低酸素環境への適応は優れた仕組みといえる。
チベットの高地人にみられる優れた適応の仕方は,アンデスの高地人より長い年月をかけて高地環境に適応を遂げてきた結果としてとらえられる。