前回のブログで論文の投稿者と査読者がそれぞれ利益相反の有無について申告していることを記した。
利益相反のほかにも今世紀になって研究で重視されるようになったことに、倫理的側面への配慮がある。
ヒトを対象とした研究(特に生物学的・医学的研究)の倫理学的原則が1964年に医学界から示されている。
フィンランドのヘルシンキに世界の国々から医師が集まって、被験者の生命と人権を擁護するための原則をまとめた。
よくいうところのヘルシンキ宣言だ。
研究をおこなう上で倫理的に配慮すべきことが箇条書きされている。
何度かの改訂を経ながら、ヘルシンキ宣言の倫理学的原則は世界中のスタンダードとなっている。
宣言の中に、研究計画は倫理委員会で審査をうけ、被験者に対してはインフォームドコンセント(研究内容の説明と被験者からの同意)をとるべきことが記されている。
したがって、研究を論文に仕上げるときにはその研究計画が倫理委員会からの承認を受けていることや、被験者からインフォームドコンセントが得られていることを書き込まなければならない。
研究計画書やインフォームドコンセントを通じて明らかにしておかなければならない倫理的配慮には以下のようなものがある。
(1)被験者の基本的人権を侵害しないよう、どのように配慮するのか
(2)被験者に同意を求める方法をどのようにするのか
(3)同意書で説明する具体的内容(研究の目的と意義、具体的な研究方法、個人情報の取り扱い方、被験者がこうむる可能性のある不利益、被験者の自由意思により参加とその撤回が可能なことなど)
(4)身体的、精神的苦痛など予想される被験者の不利益についてどのように配慮するのか
(5)個人情報保護の観点から、データをどのように取り扱うのか
ヘルシンキ宣言に示されている内容は、第二次世界大戦のころのいまわしい人体実験について、戦勝国がニュルンベルク裁判で追及したときの倫理学的原則を参考にしている。
論文に倫理委員会の承認やインフォームドコンセントの記述が当たり前のように見られるようになったのはヘルシンキ宣言からさらに四半世紀以上たってからだ。