「暑さ寒さも彼岸までとはよくいったもので」は常套句になっているが、その通り秋分の日を過ぎるとめっきり秋らしくなった。
さまざまな秋があるが、まずは食欲の秋だ。
暑さから解放されて食欲が出てくるし、収穫の秋として多くの農水産物が出回ってくる季節だ。
私たちの味覚には基本の味覚がある。
甘い、酸っぱい、塩辛い、苦いという基本の味覚がよく知られている。
困難にあって苦しみ悩むという意味で艱難辛苦(かんなんしんく)という四字熟語があるが、それに似せて甘酸辛苦(かんさんしんく)と私は覚えている。
現在はこれにうま味をプラスした5種類が基本の味覚とされている。
食べ物のいろいろな味覚はこれらの基本の味覚が混じり合ったものだ。
味覚は舌の表面を中心にして口の中に分布する味蕾と呼ばれる受容器で検知される。
若い頃には多くの味蕾があるが、加齢とともに失われていき、舌の先や縁などにしか残らない。
残念ながら私のようなシニアは,同じものを食べても若い頃に出会ったおいしさを十分には取り戻せない。
そうはいっても、なるべくおいしく食べられるようにしたいものだ。
味覚に敏感であるためには明るい場所がよさそうだ。
味覚の感度と照明環境の関係についてみると、200ルックスの部屋よりも1500ルックスの部屋の方が甘味と苦味の感度がよくなることが示されている。
200ルックスといってもピンとこないかも知れないが,学校の教室の照度基準が300ルックス以上なので少し暗めの教室を想像してもらえばいい。
1500ルックスは精密作業などをするかなり明るい部屋だ。
一方、消化機能と照明環境の関係についてみると、唾液が分泌されやすく胃の平滑筋の活動が平常であるためには、あまり明るくなくて電球色にしている照明環境が向いているという。
明るいところで食べたらいいのか、あまり明るくないところで食べたらいいのか迷ってしまう。
しかし、私たちが感じるおいしさには、照明以外にもいろいろな要素が絡んでいる。
舌ざわり、硬さ、香り、温度,色や形、器、料理人、場所、会食相手、そのときの気分などが総合されて食べ物のおいしさは成り立っている。
ともかく、食欲の秋を楽しもうではないか。