若い頃、酒を飲んでいるときに恩師から「誠実さと熱意は人を動かす」という主旨の話を聞いたことがある。
まあそうだろうくらいに思っていたが、人生訓や処世訓の一つになるのではないかと、その後に思うようになった。
そう思わせる出来事が記憶にあるので記してみたい。
私はリタイアするまで地方の一都市に住んでいた。
その地方の名産を年末に某店より親戚一同に送ったことがあるが、わずかにだが不良品の混じっていることがわかった。
もうこの店からは送るまいと思いながら、とりあえず苦情の電話を入れたところ、店の担当者は平身低頭して遠くの親戚の家々に電話でわび、もう一度、商品を送りなおしてくれた。
その上、わが家にまで同じ商品を送ってくれたので、単純な私はうれしくなってしまった。
できごとそのものは些細なことで、ビジネスとしては当然のことなのかもしれないが、失敗に対処する際の誠実さに、私は心を動かされてしまった。
それだけではなく、その店をひいきにしようと、また買い物に行ってしまった。
大型店ではあったが、債務を抱えて景気がよくないとマスコミにもささやかれていた店だ。
大した金額ではないが、店は私の苦情に対して出費した。
しかし、このささやかな苦情への対処が決して無駄ではないことを店は認識していたようにも思う。
少なくとも、私を再び買い物に行かせたし、こうして私の記憶にとどめさせた。
私からの口コミも期待していたのかしれない。
(残念ながら、その大型店はなくなってしまったが。)
誠実さは人を動かす。
どんな手練手管よりも誠実にふるまうことが相手の気持ちを動かすのではないか。
ただし、見せかけの誠実さは聡明な相手には見抜かれよう。
熱意も人を動かすようだが、やはり、誠実さと一緒でないといけない。
私自身、熱意だけでは動かされそうにない。