彼岸も過ぎて涼しくなったと思いきや,朝晩は肌寒くさえ感じるようになった。
寒くなると自然に体が縮こまってくるが,体温が奪われないように体表面積を小さくしようとする行為だ。
寒さに対して体表面積を小さくしようとする現象は生態学的な法則にもなっている。
ベルグマンの法則はよく知られている。
同種や近縁の種の恒温動物では,寒冷地に生息しているものは大型化しているという法則だ。
寒冷環境への適応現象として理解されている。
体が縮こまることなく体表面積を小さくしているということになる。
もう少し詳しく言うと,体重に対して相対的に体表面積を小さくしているということだ。
クマの体の大きさがよく例にあげられる。
赤道近くにすんでいるマレーグマの体重は50㎏前後,日本のツキノワグマは100㎏前後,ホッキョクグマ(シロクマ)は500㎏前後と,高緯度の寒冷地にすむクマほど大きい。
下の図と表は、体が大きくなると体重(≒体積)に対して相対的に体表面積が小さくなることを示している。
わかりやすくするために立方体をクマの仮想体格としている。
シロクマがマレーグマの立方体の一辺を2倍に大きくしたものであるとしてみよう。
表に記しているように体重や全体の表面積はシロクマの方が大きいが,体重に対して相対的に体表面積を比較すると,シロクマの方が小さくなる。
体重1㎏当たりの産熱量が同じとすると,シロクマの方が熱が逃げていきにくいことを意味している。
このベルグマンの法則は人間にも大まかにではあるが,あてはまる。
体の大きさを身長に置き換えてみると,北欧の人たちは背が高い。
OECDの2000年代の資料によると平均身長は,デンマーク人(男181.6cm,女167.9㎝),アイスランド人(男181.3㎝,女168.0㎝),スウェーデン人(男180.6㎝,女166.6㎝)など。
これに対して南欧の人たちの平均身長は,フランス人(男176.3㎝,女164.1㎝),イタリア人(男175.6㎝,女163.9㎝),スペイン人(男173.9㎝,女162.8㎝)など。
日本人についても国内でベルグマンの法則の傾向は認められる。
学校保健統計調査が毎年実施されているが,それぞれの生育地に長年住んでいると考えられる17歳の高校生の身長(2019年)は以下のようである。
北国では秋田(男171.6㎝,女158.2㎝),岩手(男171.3㎝,女157.9㎝),青森(男171.0㎝,女157.8㎝)など。
南国では沖縄(男168.6㎝,女156.8㎝),鹿児島(男169.9㎝,女158.0㎝),大分(男169.5㎝,女156.8㎝)など。
北国の子どもたちの体は大き目だ。
寒さに対して私たち人間はこのような形態的適応以外に文化的適応も身につけている。
衣服,たき火,家屋,暖房器具,空調設備などがそうだ。
人体そのものの適応能力が衰えるのではないかという危惧はあるが。