私は6人兄弟の末子だが,春分の日の朝,一番上の兄が亡くなったとの知らせがあった。
私より17歳上だ。
訃報の数日前に兄の娘から,兄に何か話しかけてくれという電話があった。
何のことかわからず思いつくままに話しかけたが,兄からは応答がなかった。
会話のしようがないので短時間で電話を終えてしまったが,兄の娘は兄弟からの最後の声を聞かせたかったのだろう。
状況がわかっていれば,兄にいろいろとお世話になったことの礼を少しは言えたかもしれない。
私は末子であるがゆえに,少なからず姉兄たちの恩恵を受けた。
おそらく,両親が姉兄たちに年が離れている幼い私をかわいがるよう仕向けたのだろう。
亡くなった兄にもお世話になった。
私が子どもの頃に欲しかったものを買ってもらったこともその一つだ。
例えば,私が小学校5年生のとき,野球盤を買ってもらった。
野球盤というのは野球場を描いた四角いパネルの上で野球をして遊ぶゲーム機。
パネル上のピッチャーの位置からパチンコ玉のような金属性のボールを打ち出し,バッターボックスに取り付けたバネ式のバットで弾き返す。
ボールが内外野の守備位置にある半円形の皿に入ればアウト,それ以外のヒットや長打の皿に入ればその分だけ進塁できる。
買ってもらった野球盤(エポック社E型)の値段は1000円。
当時の大学卒の初任給が2万円前後だったようだから,1000円はその20分の1。
兄にとっては結構高い買い物だったろう。
時期は前後するが,野球のグラブや自転車も買ってもらった。
一番上の姉は既に2007年に亡くなっている。
私よりも19歳上だった。
その姉からも我が子のようにかわいがられた。
今回,一番上の兄を亡くして兄弟は4人になった。
年をとり兄弟を失っていくのは寂しい。
しかし,いずれはこうなることでもある。
衰えていくことには抗えない。
メメント モリ。