前回のブログでファクトチェックについて記したが、脳科学の分野では昔から根拠のない俗説、いわゆる神経神話というものがある。
名前からもわかるように神経機能について確かな根拠もなく広く信じられている情報だ。
ファクトチェックにひっかかるであろうことは言うまでもない。
神経神話の1つに「脳は全体の10%しか働いていない」がある。
脳の神経細胞はすべてがお互いにシナプスを形成してつながり、信号を送りあっている。
働き方の程度に違いがあるだけだ。
安静にしているときも脳の神経細胞は働いていてエネルギー消費量が多い。
2つ目は「脳をトレーニングすると脳の働きがよくなる」だ。
記憶力や推理力をトレーニングすると、トレーニングそのものの成績は向上するが脳機能の向上はもたらさなかったという実験結果がある。
脳の特定部位を繰り返し使っても、その部位の機能が向上するという科学的根拠は示されていない。
3つ目は「右脳をよく使う人は芸術的、左脳をよく使う人は論理的」というもの。
機能局在で大脳の右半球と左半球で機能の違いはあるが、それぞれの機能は連絡を取り合って機能する。
右脳と左脳のどちらかが優先して働いているわけではない。
4つ目は「男は話を聞かず、女は地図を読めない」。
空間認知能力は男が優れ言語能力は女が優れているからと思われがちだが、男女間の統計的な差よりも個人差の方が大きい。
5つ目は「頭が大きかったり、しわの数が多いほど頭が良い」。
脳の大きさや前頭葉の体積と知能指数には相関があるという結果もあるが、ある人の頭の大きさからその人の知能を推測できるほどの関係はない。
そのほかにも神経神話はある。
人の能力や感情を評価するのは難しいが、わかりやすくするために拡大解釈してしまうことが神経神話を作り出しているようだ。